その日、ポケモン協会内では、四天王一人とベニシティのジムリーダーを除くジムリーダー達が出席する緊急会議が行われていた。
数日前にモエギシティのジムリーダー:ミヨコが「何か」に襲われて昏睡状態となった件についてのその緊急会議は、当然、最後に出入りしていた旅のトレーナーの少女の話へとなる。
ミヨコの孫にあたるウスハナシティジムリーダーのジュウイチロウは、該当のトレーナーを拘束して話を聞くべきだと主張し、コンペキシティのジムリーダーのカツミは、映像結果から旅のトレーナーの関与は低く、むしろ昏睡させた影の正体を探った方がよいのではと主張。二人のジムリーダーが画面越しに荒れる中、「じゃあ実際にあってみればいいんじゃないかな?」とコクヤタウンのジムリーダーのフジシロが提案する。
「だって映像に映ってた子、サマトラ参加用の腕輪を付けてたでしょ? なら、他のジムに立ち寄る可能性も高いと思うよ。それにほらぁ、サマトラの本当の目的に感づいた『集団』が、人気がないタイミングでジムリーダーを狙った可能性だってありそうじゃなーい?」
どこかふざけたような口調で言うフジシロの言葉に、全員が緊迫した表情になったところで、アゼルが小さく息をつく。
「とにかく。今回の件については、彼女だけ狙われたのかどうかすらはっきりしない。フジシロの言うとおり、ジムリーダーそのものを標的としているのであれば、今後も同じ事象が発生する可能性がある。全員、くれぐれも周辺に注意してくれ。それと……――当初の通り、引き続き各ジムリーダーは、”ウツロックス”を服用しているとおぼしきトレーナーの目星と、周辺区域に『不思議な木』が無いか確認するように」
会議が終わったアゼルは、エメラルドから送られた資料を見下ろす。今回の会議の中では出さなかった資料の一つには、見たことのないポケモンと、アゼルのよく知る青年も映っていた。本来であれば、彼が起きた事象を説明してくれればいいものの、何故か頑なに話そうとしないのだと聞いている。
「あの馬鹿は、一体何を考えているんだ……」
写真に写る青年を苦々しげに見下ろして、残っている協会四天王は深々と溜息をつくのだった。
*****
ランタウンに立ち寄った一行は、ポケモンセンターでリユウ博士捜索の情報収集をしたところ、ジムの方でリユウ博士を見たという話を聞く。
情報を元にランタウンのジムまで辿り着くも、何故か入り口は閉まっており、「ご用の方はインターフォンを押して下さい」という張り紙が張り出されていた。
指定の通りインターフォンを押すと、近くの壁から、ポケモンに関する知識を問う問題の書かれた用紙とペンが出てくる。セイナが問題なく回答を記載して提出するが、今度は『しがないシリーズ』に関する問題が書かれた用紙が出てくる。と、今度は傍にいたハーヴがすらすらと回答を述べる。しかし、問題文の末尾にあった「最終巻の結末はどれか?」という部分にハーヴは何故か固まってしまう。話を知っていたセイナが回答を書こうとしたところで、
「……『しがないシリーズ』の最後は、どういう話だった? 最後部分だけ、ざっくりで構わない」
主人公の片割れである青年が命を課して人間とポケモン達を護って死に、残された人に化けた相棒のポケモンは、彼の意思をついて地方を護っていく、という内容だ。その話を聞いて、ハーヴはやはりと深く頷く。
『なるほど。ならばこれの回答は決まっている。……「未完のため不明」だ』
瞬間、扉が大きな音を立てて開き、同時、中から姿を現したゴーストポケモン達が、セイナ達を歓迎するように手を引こうとしたり、招く様に手を振る。
案内されるがままにジムにやってきた一行は、スクリーン越しに、知識のジムリーダーだと名乗るヨリカと顔を合わせる。
1枚目の問題文は挑戦者の実力を測るため、2枚目の問題文は『ただの趣味』だと述べる彼女は、同じジムリーダーであるミヨコの件はすでに聞き及んでいるらしく、用心のために画面越しだと説明する。その上で試練の話をしだそうとするのを遮り、セイナは訊ねる。
「あの、この『ソウセイの腕輪』って一体何なんですか? ミヨコさんからは『扉を開けてしまう人』で、『試練』を受ける必要がある、としか聞いていなくて……それに、『試練』ってどういったことをするんですか……?」
「うーん、アタシも『ソウセイの腕輪』が何なのかは、文献通りでしか知らないッスねぇ。ただま、『試練』についてなら、それなりに答えられる感じッスよ」
その言葉と共に、ヨリカの映るスクリーン全体に、『地方創生物語』が全面に表示される。
「『地方創生物語』は知ってるッスね? モノクロ地方に伝わる”おとぎ話”のあれッス。基本この、『9つの言葉を学んだ者達』がジムリに置き換わっているだけ。つまりアタシ達ジムリーダーは、君が『物語のやり直しを願う者』に相応しいかどうか、『試練』を通して見極めるんッスよ。試練の内容はその時のジムリーダーによって任されるんッスけど、君が相応しければ、自然、宝石の収められた扉が開くそうッス。ま、その辺の詳細はコクヤのジムリが知ってるはずッスから、そっちに聞いていただければと~」
自分に自信が無く、覚悟もないことを見透かされたような気分で、少女の表情が曇る。
「相応しい人……」
「まー、相応しいかどうかなんて、普通のジム戦における実力測りと変わらねーですから、そんな難しく考えなくていいと思うッスよ。駄目なら駄目で、その時に考えればいい。世界の命運がどうとか、そういうおもったい話でもねぇんですからね。リラックス、リラーックス☆」
気楽そうにけらりと笑うヨリカに面食らう。一方、腕の中にいたハーヴが眉間に皺を寄せて尋ねる。
『質問なんだが、『ソウセイの腕輪』が本物だということは、神話に出てくる「物好きな神」とやらも実在するのか?』
「はー……やっぱ喋れるんッスね、それ」
「えっ、あっ! こ、これは!」
『あぁ、そうだとも。私はハーヴ。喋ることが出来る謎のポケモンだ! どうせ誤魔化したところで、私が問題を解いたところを見られている以上、怪しまれるのは時間の問題だからな。それで、君は答えを知ってるのかね?』
探るようなハーヴの問いに、ヨリカは目を細めて――首を傾げる。
「さぁ?」
『さぁ!?』
「アタシが知識のジムリーダーといえど、流石に「私は物好きな神様です」と名乗る存在には出会ったことないッスからねー。第一、本物のソウセイの腕輪をつけた人間が現われるなんて、前ジムリからの引き継ぎの時ですら半信半疑だったんッスから~。んじゃついでにこっちから……最後の問題。あれ、なんで「未完のため不明」って書いたんッスか?」
「決まっている。物語というものは、どうあれ最後はやはりハッピーエンドであるべきだ! つまり、トゥルーエンドの物語なぞ、未完に決まってるだろう!」
「すっげー自信満々に完結した本をこき下ろす謎のポケモンって、マジでなんなんッスか……」
自信満々に言うハーヴに呆れた顔をするヨリカが気を取り直すと、『ソウセイの腕輪』を持つ者への『試練』として、イミヅキの森のトラブルを解決することだと告げてくる。
「イミヅキの森に住むゴーストポケモン達は本来大人しいッス。ところが最近、どういうわけか森を抜け出しては、街で迷惑をかける子達が出てきた。数日前に話を聞いて森に行ったリユウ博士は戻ってきた風でも無し。なのでま、そろそろ探しに行こうと思ってたとこに、貴方達が来た、というわけッスね。さっきも言ったとおり単なる実力測りッスから、まずは原因探りのために森に行って貰う、ということで。あわよくば君が『相応しい知識』を見せることが出来れば、文句なしに試験合格ッスよ~」
ジムリと通信が出来る機械を持ったゴーストが監視となり、セイナはハーヴと共に、イミヅキの森へと向かうことになった。
一方で、試練だからという理由でジムに残されたテイルの方は、部屋から出てきたヨリカから、ミヨコの昏睡との関係性、セイナが連れていた謎のポケモンについて問われる。
「マスターランクの貴方が一緒にいるなんてただ事じゃない。あのポケモン、マジでなんなんです? ミヨコさんの昏睡についても、実は知っていることがあるんじゃないッスか~?」
「昏睡の理由については本当に何も知らない。……あのポケモンについても、特には」
「――破壊の繭と生命の宿り木の『神話』、知ってるッスよね」
「……何故、それを貴方が?」
「はぁ~~~~。試しにカマ掛けただけッスけど当たりですか。言っときますけど、知識のジムリーダーを舐めちゃあいけないッスよ。あー、生き字引たるコクヤのジムリには敵わないですけど……さっきも言ったとおり、『ソウセイの腕輪』の役割なら、あっちの方が知ってるんッスから。んで、コクヤタウンのジムリーダーの言葉通りなら、貴方はあの謎のポケモンに対して、かの伝承と合わせた”何か”を感じていて、それを監視しているってとこッスかね?」
「……」
「ま、部外者の私があれこれ口出しするつもりは毛頭ないので、話はここまで! ヨリカさんの事も本当に知らなさそうですしね。さて。ランタウンのジムリーダーとして、『ソウセイの腕輪』を持つトレーナーの実力を測るお仕事を始めるッスよ~」
*****
イミヅキの森で待ち受けていたのは、白の組織の下っ端たちだった。森に入るのを邪魔してくる彼らを倒して奥にへ進むと、白の組織で幹部候補だという男が、巨大装置の前に立ちはだかる。巨大装置は野生ポケモン達を混乱状態にするためのものであり、この機械を使った壮大な計画の前準備なのだと豪語する。
その後、発電所で戦った女性のように何かを服薬したかと思うと、幹部候補の男が倒れる代わりに、ゴローニャが人間の言葉を喋りだして襲いかかってくる。
相性不利のリザードで苦戦を強いられるが、持ち前の知識とヨリカのサポートもあって何とかゴローニャを倒し、巨大装置を破壊して事態を収拾する。
その後、直接顔を見せたヨリカに案内される形でジムの地下に到着すると、またしても勝手に開いた扉の中にあった箱から、宝石がひとりでに腕輪にはまり込む。ジムバッチを手渡したヨリカが、両手を握りしめてぶんぶんと嬉しそうに手を振る。
「最初の時はめっちゃキョドってたからどうかと思いましたが、中々どうして、ここぞの肝の座り具合は良かったッスよ~。相性を知識でカバーできていたので、知識のジムリーダーとしては文句なしの合格ッス! ひいき目無しに褒めてますから、もっと自信、持っていいッスよ~?」
「あ、有難う、御座います……」
勢いに圧倒されつつも苦笑気味に笑うセイナに、テイルとハーヴが顔を見合わせてどこか満足そうな表情を浮かべる。
その後、リユウ博士が既に街から離れてカナリア砂丘に向かったことをヨリカから教えられた一行は、ひとまず、砂丘に近い町カナリアタウンへ向かうことにした。
数日前にモエギシティのジムリーダー:ミヨコが「何か」に襲われて昏睡状態となった件についてのその緊急会議は、当然、最後に出入りしていた旅のトレーナーの少女の話へとなる。
ミヨコの孫にあたるウスハナシティジムリーダーのジュウイチロウは、該当のトレーナーを拘束して話を聞くべきだと主張し、コンペキシティのジムリーダーのカツミは、映像結果から旅のトレーナーの関与は低く、むしろ昏睡させた影の正体を探った方がよいのではと主張。二人のジムリーダーが画面越しに荒れる中、「じゃあ実際にあってみればいいんじゃないかな?」とコクヤタウンのジムリーダーのフジシロが提案する。
「だって映像に映ってた子、サマトラ参加用の腕輪を付けてたでしょ? なら、他のジムに立ち寄る可能性も高いと思うよ。それにほらぁ、サマトラの本当の目的に感づいた『集団』が、人気がないタイミングでジムリーダーを狙った可能性だってありそうじゃなーい?」
どこかふざけたような口調で言うフジシロの言葉に、全員が緊迫した表情になったところで、アゼルが小さく息をつく。
「とにかく。今回の件については、彼女だけ狙われたのかどうかすらはっきりしない。フジシロの言うとおり、ジムリーダーそのものを標的としているのであれば、今後も同じ事象が発生する可能性がある。全員、くれぐれも周辺に注意してくれ。それと……――当初の通り、引き続き各ジムリーダーは、”ウツロックス”を服用しているとおぼしきトレーナーの目星と、周辺区域に『不思議な木』が無いか確認するように」
会議が終わったアゼルは、エメラルドから送られた資料を見下ろす。今回の会議の中では出さなかった資料の一つには、見たことのないポケモンと、アゼルのよく知る青年も映っていた。本来であれば、彼が起きた事象を説明してくれればいいものの、何故か頑なに話そうとしないのだと聞いている。
「あの馬鹿は、一体何を考えているんだ……」
写真に写る青年を苦々しげに見下ろして、残っている協会四天王は深々と溜息をつくのだった。
*****
ランタウンに立ち寄った一行は、ポケモンセンターでリユウ博士捜索の情報収集をしたところ、ジムの方でリユウ博士を見たという話を聞く。
情報を元にランタウンのジムまで辿り着くも、何故か入り口は閉まっており、「ご用の方はインターフォンを押して下さい」という張り紙が張り出されていた。
指定の通りインターフォンを押すと、近くの壁から、ポケモンに関する知識を問う問題の書かれた用紙とペンが出てくる。セイナが問題なく回答を記載して提出するが、今度は『しがないシリーズ』に関する問題が書かれた用紙が出てくる。と、今度は傍にいたハーヴがすらすらと回答を述べる。しかし、問題文の末尾にあった「最終巻の結末はどれか?」という部分にハーヴは何故か固まってしまう。話を知っていたセイナが回答を書こうとしたところで、
「……『しがないシリーズ』の最後は、どういう話だった? 最後部分だけ、ざっくりで構わない」
主人公の片割れである青年が命を課して人間とポケモン達を護って死に、残された人に化けた相棒のポケモンは、彼の意思をついて地方を護っていく、という内容だ。その話を聞いて、ハーヴはやはりと深く頷く。
『なるほど。ならばこれの回答は決まっている。……「未完のため不明」だ』
瞬間、扉が大きな音を立てて開き、同時、中から姿を現したゴーストポケモン達が、セイナ達を歓迎するように手を引こうとしたり、招く様に手を振る。
案内されるがままにジムにやってきた一行は、スクリーン越しに、知識のジムリーダーだと名乗るヨリカと顔を合わせる。
1枚目の問題文は挑戦者の実力を測るため、2枚目の問題文は『ただの趣味』だと述べる彼女は、同じジムリーダーであるミヨコの件はすでに聞き及んでいるらしく、用心のために画面越しだと説明する。その上で試練の話をしだそうとするのを遮り、セイナは訊ねる。
「あの、この『ソウセイの腕輪』って一体何なんですか? ミヨコさんからは『扉を開けてしまう人』で、『試練』を受ける必要がある、としか聞いていなくて……それに、『試練』ってどういったことをするんですか……?」
「うーん、アタシも『ソウセイの腕輪』が何なのかは、文献通りでしか知らないッスねぇ。ただま、『試練』についてなら、それなりに答えられる感じッスよ」
その言葉と共に、ヨリカの映るスクリーン全体に、『地方創生物語』が全面に表示される。
「『地方創生物語』は知ってるッスね? モノクロ地方に伝わる”おとぎ話”のあれッス。基本この、『9つの言葉を学んだ者達』がジムリに置き換わっているだけ。つまりアタシ達ジムリーダーは、君が『物語のやり直しを願う者』に相応しいかどうか、『試練』を通して見極めるんッスよ。試練の内容はその時のジムリーダーによって任されるんッスけど、君が相応しければ、自然、宝石の収められた扉が開くそうッス。ま、その辺の詳細はコクヤのジムリが知ってるはずッスから、そっちに聞いていただければと~」
自分に自信が無く、覚悟もないことを見透かされたような気分で、少女の表情が曇る。
「相応しい人……」
「まー、相応しいかどうかなんて、普通のジム戦における実力測りと変わらねーですから、そんな難しく考えなくていいと思うッスよ。駄目なら駄目で、その時に考えればいい。世界の命運がどうとか、そういうおもったい話でもねぇんですからね。リラックス、リラーックス☆」
気楽そうにけらりと笑うヨリカに面食らう。一方、腕の中にいたハーヴが眉間に皺を寄せて尋ねる。
『質問なんだが、『ソウセイの腕輪』が本物だということは、神話に出てくる「物好きな神」とやらも実在するのか?』
「はー……やっぱ喋れるんッスね、それ」
「えっ、あっ! こ、これは!」
『あぁ、そうだとも。私はハーヴ。喋ることが出来る謎のポケモンだ! どうせ誤魔化したところで、私が問題を解いたところを見られている以上、怪しまれるのは時間の問題だからな。それで、君は答えを知ってるのかね?』
探るようなハーヴの問いに、ヨリカは目を細めて――首を傾げる。
「さぁ?」
『さぁ!?』
「アタシが知識のジムリーダーといえど、流石に「私は物好きな神様です」と名乗る存在には出会ったことないッスからねー。第一、本物のソウセイの腕輪をつけた人間が現われるなんて、前ジムリからの引き継ぎの時ですら半信半疑だったんッスから~。んじゃついでにこっちから……最後の問題。あれ、なんで「未完のため不明」って書いたんッスか?」
「決まっている。物語というものは、どうあれ最後はやはりハッピーエンドであるべきだ! つまり、トゥルーエンドの物語なぞ、未完に決まってるだろう!」
「すっげー自信満々に完結した本をこき下ろす謎のポケモンって、マジでなんなんッスか……」
自信満々に言うハーヴに呆れた顔をするヨリカが気を取り直すと、『ソウセイの腕輪』を持つ者への『試練』として、イミヅキの森のトラブルを解決することだと告げてくる。
「イミヅキの森に住むゴーストポケモン達は本来大人しいッス。ところが最近、どういうわけか森を抜け出しては、街で迷惑をかける子達が出てきた。数日前に話を聞いて森に行ったリユウ博士は戻ってきた風でも無し。なのでま、そろそろ探しに行こうと思ってたとこに、貴方達が来た、というわけッスね。さっきも言ったとおり単なる実力測りッスから、まずは原因探りのために森に行って貰う、ということで。あわよくば君が『相応しい知識』を見せることが出来れば、文句なしに試験合格ッスよ~」
ジムリと通信が出来る機械を持ったゴーストが監視となり、セイナはハーヴと共に、イミヅキの森へと向かうことになった。
一方で、試練だからという理由でジムに残されたテイルの方は、部屋から出てきたヨリカから、ミヨコの昏睡との関係性、セイナが連れていた謎のポケモンについて問われる。
「マスターランクの貴方が一緒にいるなんてただ事じゃない。あのポケモン、マジでなんなんです? ミヨコさんの昏睡についても、実は知っていることがあるんじゃないッスか~?」
「昏睡の理由については本当に何も知らない。……あのポケモンについても、特には」
「――破壊の繭と生命の宿り木の『神話』、知ってるッスよね」
「……何故、それを貴方が?」
「はぁ~~~~。試しにカマ掛けただけッスけど当たりですか。言っときますけど、知識のジムリーダーを舐めちゃあいけないッスよ。あー、生き字引たるコクヤのジムリには敵わないですけど……さっきも言ったとおり、『ソウセイの腕輪』の役割なら、あっちの方が知ってるんッスから。んで、コクヤタウンのジムリーダーの言葉通りなら、貴方はあの謎のポケモンに対して、かの伝承と合わせた”何か”を感じていて、それを監視しているってとこッスかね?」
「……」
「ま、部外者の私があれこれ口出しするつもりは毛頭ないので、話はここまで! ヨリカさんの事も本当に知らなさそうですしね。さて。ランタウンのジムリーダーとして、『ソウセイの腕輪』を持つトレーナーの実力を測るお仕事を始めるッスよ~」
*****
イミヅキの森で待ち受けていたのは、白の組織の下っ端たちだった。森に入るのを邪魔してくる彼らを倒して奥にへ進むと、白の組織で幹部候補だという男が、巨大装置の前に立ちはだかる。巨大装置は野生ポケモン達を混乱状態にするためのものであり、この機械を使った壮大な計画の前準備なのだと豪語する。
その後、発電所で戦った女性のように何かを服薬したかと思うと、幹部候補の男が倒れる代わりに、ゴローニャが人間の言葉を喋りだして襲いかかってくる。
相性不利のリザードで苦戦を強いられるが、持ち前の知識とヨリカのサポートもあって何とかゴローニャを倒し、巨大装置を破壊して事態を収拾する。
その後、直接顔を見せたヨリカに案内される形でジムの地下に到着すると、またしても勝手に開いた扉の中にあった箱から、宝石がひとりでに腕輪にはまり込む。ジムバッチを手渡したヨリカが、両手を握りしめてぶんぶんと嬉しそうに手を振る。
「最初の時はめっちゃキョドってたからどうかと思いましたが、中々どうして、ここぞの肝の座り具合は良かったッスよ~。相性を知識でカバーできていたので、知識のジムリーダーとしては文句なしの合格ッス! ひいき目無しに褒めてますから、もっと自信、持っていいッスよ~?」
「あ、有難う、御座います……」
勢いに圧倒されつつも苦笑気味に笑うセイナに、テイルとハーヴが顔を見合わせてどこか満足そうな表情を浮かべる。
その後、リユウ博士が既に街から離れてカナリア砂丘に向かったことをヨリカから教えられた一行は、ひとまず、砂丘に近い町カナリアタウンへ向かうことにした。
セイナ達がいなくなった後、ヨリカはジムリーダーとして引き継いでいた『ソウセイの腕輪』について調べ直していた。やはり伝承に書いてある以外の情報はなく、詳細はコクヤタウンのジムリに聞くしか無い。
そんな中、ソウセイの腕輪を管理している扉の”中”にあった蔦については、一切、言及が無い事に気がつく。また、”コクヤタウンのジムリーダー:フジシロに言われたとおり設定した”「しがないシリーズ」に関する問題に対して回答していた謎のポケモンを思い出す。
続けての質問の回答があまりにも『知りすぎている』ことから、あのポケモンの中身って実は……と思い当たることを考えながら、再び地下の扉の様子を見に来た直後、足元の影に飲み込まれたヨリカもまた、意識不明となってしまうのだった。