6:ハーヴという存在

一行はランタウンへ向かうため、一度ベニシティへと戻ってくる。
センター内に張り出された情報には、ベニシティからカナリアタウンへ向かう道が、凶暴なドラゴンポケモン達の縄張りになってしまったこと、ベニシティのジムリーダーがその対応で出払って暫く帰ってこないこと、道の完全開通には時間がかかる旨が張り出されていた。
迂回路として、「シコンの塔」を経由してランタウンへと行けることが分かり、一行はひとまずはシコンの塔を目指すことにする。
シコンの塔周辺は、ゴーストポケモンが多く住み着いている場所であり、モノクロ地方内最大の霊園が存在する場所でもあった。一行はシコンの塔近くの森で道に迷ってしまったため、仕方なく近くにあった小屋で一夜を明かす。
翌日の朝、目を覚ましたセイナは、ハーヴの様子がおかしいことに気がつく。普段であれば明るく煩いはずの彼が、眉間に皺を寄せてセイナを覗き込んでいた。そして、
「おい。アイツを探しに行くぞ」
普段の様子から想像のつかない不機嫌極まりない声で、ハーヴの姿をした”彼”はそんなことを告げてきた。

シコンの塔へ辿り着き、塔の中を探索する道すがら、セイナはハーヴへ声を掛ける。しかし、普段とは全くほぼ反応を示さず、ただし普段よりも自分から積極的に出てくる野生ポケモンを屠る。そんな様子に混乱を見せるセイナの側で、テイルは黙ったまま彼を観察していた。
やがて一行は最上階に辿り着く。最上階には、シャンデラの形をした檻の中に、半分くらい身体の透けたハーヴが収まっていた。
「ハーヴが二人!?」
「おぉ、セイナにテイル! うむ、私がハーヴで、そっちもハーヴだ! というわけで、この私を助けて欲しい! ってか、助けて!」
その言葉に嫌そうな表情ながらも飛び上がった実体のあるハーヴだったが、空中に一斉に現れたシャンデラやムウマージ達などのゴースト達の群れに邪魔され、思うように近づけない。そこを、彼を助けるようにしてセイナのリザードやテイルの手持ち達が他のゴーストポケモン達を押さえ込む。
「何故、わざわざ手助けを」
「早く、ハーヴを助けてあげて!」
普段はあまり感情的ではないように見えていた少女の言葉に目を丸くしつつも、実体のあるハーヴが檻まで近づく。そして、半透明のハーヴと翼を重ねた瞬間、その場が突然黒い光に覆われる。
思わず目をつむったセイナとテイルだが、次に目を開けたときには、先程まで自分達を囲んでいたゴーストポケモン達の姿はなく、ハーヴはぬいぐるみのように転がって目を回していた。

次にハーヴが目を覚ましたのは、シコンの塔を抜けて、ランタウンへ向かう道を下っている途中だった。
性格は何時ものお調子者でよく喋るものに戻っていた。
突然性格変化した理由について問われたハーヴは、セイナ達とこうして話をしている「ハーヴ」という存在は、実は元人間の魂だと話し出す。元の人間は事故で死んだのだが、何故かその魂だけが今の「謎のポケモン」の中に何故か入ってしまったという。
今回は人間の魂側が、眠っている間にゴーストポケモン達に隙を突いて抜かれたことが原因であり、彼が抜けたことで、同居元の「謎のポケモン」の精神が表に出てきたという。「謎のポケモン」本人も自分が何者か分からないため、セイナ達の言う「博士に調査して貰う」というのは願ったり叶ったりなのだとハーヴは告げる。
謎が謎を呼ぶ説明に混乱するセイナへ苦笑するハーヴを、テイルは疑念を持った目で睨み付けていた。

その日の深夜。テイルは、昼間の話を踏まえた上でハーヴへと問いかける。
「お前は9年前、俺達と会ったことがあるか?」
「うん? なんのことだろうか?」
「お前じゃなく、『もう片方』は俺のことを知らないか?」
「おっ、今日の君は随分と自意識過剰だ……う、うむ。悪かったからテイル、もう少し眉間の皺を緩めたまえ…………知らない、だそうだ」
「そうか」
「それにしても、本当に突然どうしたんだ? もしや、この身体の正体に心当たりがあるのか!?」
キラキラと期待を含む眼差しを向けるハーヴに、テイルは視線を外して首を横に振る。
「……いや、俺の思い違いだった。今のは忘れてくれ」
そのまま逃げるように部屋を出て行った彼の背中を思い返し、ハーヴはひっそりと、胸中で謝罪を口にする。
(すまないな、テイル。彼は、君のことを知っているわけではないが……――九年前に出会ったことは、あるんだ)